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植木・庭木の移植について。

移植に関しては、本来、木の生理学を熟知している者が語るものだと思うのですが、熟知していない植木屋でも滅多に移植が原因で木を枯らすことがないので、語ってもいいと思いまして。但し、ごく普通の木に関してです。例えば「マングローブ」とか、訳のわからん木は別です。また、北国の方、限定です。

庭木流通センターに来ていただくお客様の質問のトップは、庭木移植の時期についてです。

例えば夏にご来店のお客様は「木がほしいんだけど、春じゃないと移植できないんですよね・・」と、このパターンが一番多いのです。

私「春から秋までいつでも大丈夫ですよ」。お客さん「それじゃ、この木を購入したいんだけど、今ある木を移植してから植えてもらえますか?」、私「その木、何年そこに植えてありますか?」、お客さん「もう5年になるね」、私「それは、この時期の移植は難しい」、お客さん「さっきいつでも良いと・・」、まあ、こんな感じのやり取りです。

ここで植木屋の木とお客さんの庭の木とは、移植に関してかなりの違いが有ることをご理解頂きたいのです。

その違いは木の根です。

植木屋の木の根は、いつでも移植できるように「根回し」をしてあります。これは、根毛(根の先端部)を出させて移植時に根を切らないで済むように、根を作って有るのです。 根毛を切らないと言うことは、鉢植えの木を鉢から抜いて植えるのと、そう変わりありません。写真のA部で根を掘るため根毛が残る。

一方、数年植えっぱなしの木の移植は確実に根毛より幹側で根を切断するため、大部分の根毛を無くすことになります。この根毛の量が植木の生死を分ける事になります。写真のC部の距離が長いので、写真のB部で根を掘ることと同じで、残る根毛が少ない」

根の状態
根の根毛の様子

もう少し詳しく根毛の大事さについて説明します。簡単に樹木の仕組みからです。

木の根の先端部、そこが根毛です。この根毛から水分・養分等を根の通導組織である導管を通って幹へ、そして幹 内の導管を通って枝へ、そして葉へ、葉の気孔から水分を大気へ。

今度は逆に葉から根毛までを見てみると、葉の中は根から送られた養分の溶けこんだ水が太陽の光で水素と酸素に分解され、葉の気孔から吸収された炭素(二酸化炭素)と葉内の水素から、主に糖類やデンプンなどの炭水化物を作ります。これが光合成と呼ばれているものです。この炭水化物が植物の細胞を作るエネルギーなのです。

で、今度は師部と言う組織を通って葉から枝へ、枝から幹へ、幹から太根へ、太根から根毛へ、そして根毛は常に細胞を増やし樹木の成長に合わせて必要なだけ分岐を繰り返し土中に広がっていきます。このぐらい根毛が大事なのです。 この根毛を切ってしまう移植は、木にとって相当なダメージであり下手をすると枯れてしまいます。

そこで疑問です。

「古い木は季節に関係なく移植すると枯れてしまうことになりますよね?」。これは私も常に移植作業中に思う疑問なのです。だけど、そう簡単に木は枯れません。では何で木が枯れないのか?。

その1
植木屋はその辺を理解しているので、危ない木は依頼があっても断ります。(これ大事、信用無くしますから)。

その2
根毛を100パーセント切らないで済むから。

その3
根の切り口から新しい根毛が出るから。

以上、大きな理由はこの三つです。ご自分で移植をするときの参考になるように、もう少し詳しく1.2.3を説明します。

いくら植木屋でも根毛を全て無くす様な条件では木は確実に枯れます。写真は極端な例ですが、B部で掘ると確実に枯れる。A部で掘りたいので、周りの状況や崩れない土か等々を見ている。AとBの間は根毛がビッシリとある。 その前に、落葉樹の移植は何月で、常緑樹は何月。などと良く聞きますが、年によって気候が数週間ずれますから、大事なのは何月頃と言う事では無く、気温と地温と葉の状態で、移植の適期を考えるべきです。また、落葉樹も常緑樹も移植に関し言えば、私はほぼ同じメカニズム(異論は承知です)と考えておりますので、季節等で別けておりません。

根を掘る場所の様子

その1
植木屋が移植したい木の何処を見るのか?。地際の根の張りを見ます。いかにも太い根が張っているかどうかです。根毛が幹からどのくらい離れた場所に有るかを見ています。次に木を揺すって土の中の根の太さや張り具合をみます。次に土の質をみます。これは、なるべくたくさんの根毛を根に残すため、どの大きさで根を掘ることが出来るかを見ています。 例えば、砂質土(サラサラした土)だと堀取り最中に土が崩れます。粘度質も自重で崩れる事があったりするので、その辺を見極めているのです。大半はこの時点で移植が可能かどうか判ります。

その2
大きな木でも、根の幹側に結構たくさんの根毛が有るものです。根を掘る大きさを決めるときに根毛をどのくらい犠牲にし、どのくらい残せるのか、この判断が生死を分けます。 樹木全体のボリューム(葉の数等)に対しての残せる根毛の量の問題ですが、決まった量の目安が有りませんので、多少経験が必要です。その1同様、根毛を残せる木が移植可能と言う訳です。「幹近くでも根毛が多いので、幹の太さに対して、こんなに小さく(赤いライン)掘っても移植可能です」。

幹の近くにある根毛

その3
この項が本命です。有る程度の根毛が残せると判断し、いよいよ移植です。 その前に、ここでやっと季節の話です。確かにやっぱり春が良い、春と言っても新芽が出る前と、出ている最中、新芽が成熟した頃とに別けて考えます。同じ春でも、それぞれ移植によるストレスに格段の差があります。

新芽が出る前の場合。

すでに根毛による水の給水が始まっていますが、葉が無いので蒸散はきわめて低い時期であり、樹体内に水分をため込んで葉を開くための準備中と言う状態でしょうか。

このとき根を切られても樹体内の水分で葉を開かせます。葉が開くと光合成による糖質などが、損傷を受けた根の切り口まで送られ根毛を大量に作ります。業界用語で「小根がビッシリ」と言う状態です。こうなると移植は成功です。

「写真は、春の新芽が吹く前に、赤のラインで根をブッツリと切られても2ヶ月程で根毛を出している様子。すごい生命力だ。」

根を切った後の様子

次に、新芽が出ている最中ですが、この時が一番やっかいです。

根を切られると、まもなく新芽が萎れてきます。水の供給が葉の気孔からの蒸散に追いつかない状態になっていて、結構なストレスだと思います。だけど、切られていない根毛からの給水や芽を吹く前に貯めておいた樹体内の水分で、萎れないで、がんばっている葉が光合成をして必要な水分を確保するために、新しい根毛を先程同様に作ってくれます。

これもまた移植成功ですが、新葉や茎は、まだしっかりとした組織細胞となっていないため、重力に負けて垂れ下がり、そのまま戻らない葉や縮れて枯れていく葉も当然あります。「但し、この時期に上の写真の様な無茶な場所で根を切ると、ほぼ枯れるでしょう」

ここで簡単な木の生理学です。

水分の足りている葉から足りていない葉へは水分は移動しない。葉・枝・幹内の水分は根に向かって逆流はしないし、枝同士も水をやり取りしない。即ち根から葉へ、葉から大気への一方通行。

根の切り口や根毛以外の根(根の表皮)からは水を吸えない(若干、吸うらしい)下の写真参照。 吸えないからと言って、切り口が乾燥してはいけない、乾燥により細胞が壊死し、根毛を出せなくなるから。 水が重力に逆らって上に登るのは、毛細管現象と浸透圧である。浸透圧といっても、細胞内濃度の強弱や水蒸気圧の関係、葉の蒸散による吸引力など複雑なメカニズムである。
植木屋風樹木の生理学を参照

根の先端の様子

以上のような事を知った上で移植すると結構うまくいく。

要するに掘りとった後、根を長時間、直射日光や風に当てないこと、乾燥により急速に根の壊死が始まるから。それでも切り口の乾燥は避けられないので、植える直前に切り口を更に切り、壊死したであろう部分を取ってから土に触れるようにする。

その土もカラカラの乾燥状態だとまずいので、適度な湿り気が必要。少ない根毛でがんばっているので、ほしいだけ吸えるようにタップリと水をかける。これで移植成功。

写真は、すごーく極端な例です。いくら春とは言え、私の腕より太い「根っこ? いや幹?」そうです幹です。幹で切断されて移植されても、なんと太い根を何本も出して、更に幹から根毛が、恐るべし樹木達。

根から根毛が出る様子
切り口から根を出す様子

新芽が成熟した頃(業界では「芽が固まった」と言う状態)。

この時期は水分の蒸散も光合成も盛んです。芽が固まったと言うことは、多少水分供給が減っても葉がしっかりとしていて萎れずらいと言うことです。萎れなければ光合成も休みませんので根毛が直ぐにでます。一応まだ春ですので樹体内の水分にも貯えがあります。

と言うことは、夏は貯えが無い?。下の写真は根毛が剥きだしで、炎天下にさらされて約一ヶ月程たってます。根毛は完全に壊死状態で水の吸い上げは皆無状態ですが、上の幹を切られた為に、ひこばえを出し、それが全く萎れない。これこそ樹体内の水分の貯えによるものです。

幹近くの根の様子

夏です。

北海道は特に高温乾燥で、どんどん気孔から水を奪われ、土は乾燥し、光合成で作ったエネルギーを、幹や枝や葉を作るために使っているし、冬の準備をしなきゃいけないし(これは貯蔵物質を作る事や細胞内の水溶液濃度を高めて寒さに耐える細胞の準備)、結構大変なのです。それらに使うために、エネルギーを水分と太陽で生産している真っ最中と言う状態です。

なので樹体内の水分が無いわけではなく、まさかのための貯蔵分が乏しい状態にあり、蒸散と供給が逼迫状態ということです。なので根毛作りに回すエネルギー(糖質など)が不足気味となり、真夏の移植は難しいと考えられます。 ちなみに葉の気孔は、水分の蒸散用の出口としての役割と、光合成に必要な二酸化炭素の取り入れ口の役割と、二つの役割をもっています。

雨不足などで水分の供給が少なくなると、自ら気孔を閉じて蒸散を防ぐ機能を持っているのですが、日中の太陽下では二酸化炭素の取り入れのために自ら気孔を開く機能もあるそうです。「なんで別々の穴にしなっかたの?」と聞いてみたいもんです。

夏は、たくさん葉が茂って花も咲いて、実もなって見た目は一番充実して元気な感じに見えますが、木にとっては必死に、この夏を乗り切ろうとしているのではないでしょうか。そんな時に根を切るんですから木も冷や汗タラタラです。

さて、秋です。

うっすらと紅葉も始まる頃です。常緑樹は見た目の変化が有りませんが、落葉樹の紅葉が始まれば、常緑樹にとってもやっぱり秋でしょう。この頃、木は翌年の新芽の準備や、幹や根への養分貯蔵も終盤にきている頃です。確かに根の切り口から根毛の発根は少なくなりますが、葉の水分蒸散もぐっと減ります。

何より春まで、じっと耐えられる貯蔵物(エネルギーの貯え)があり、根を切られても気づいていないくらいの状態です。と言うことで移植成功確率大です。

初冬です。

秋の項とほぼ一緒です。当センター内の木は12月でも、積雪があっても必要にせまられ、移植しています。但し、晩秋も初冬も移植時に水を与えません。木が水を必要としていないのと、土の凍結等を防ぐためです。

真冬です。

寒すぎて外仕事がつらいので、移植なんてしません。余談ですがカナダでは、厳冬期に土が凍ってからチェンソーで切り出して移植する、なんて話を聞いたことがありますが、確かに枯れることは無いと思います。当社でも1・2月に移植して枯れたことがありませんから。

余談です。「移植時に水分の蒸散防止を目的に、枝をバツバツ切った方がよい。」と言う話を良く聞きます。元の樹形とは、ほど遠い形なってまで、移植するんですか?。記念樹なら仕方がないかなーと思いますけど。出来ればそのままの樹形で移植したいですね。ほんとに剪定は必要でしょうか?

写真下は、植えてから10年以上でしょう、高さ5mもある野村モミジです。6月末の炎天下、歩くだけで汗が出るような日でした。雨もしばらく降ってませんし、土は火山灰で全くの湿り気も有りません、そして太い根っこを何十本もバツバツ切りました。

紅葉の木の移植成功の例

枝を切ってまもなく切口が濡れてくる、これは切口から水が出ている証拠。

と言うことは、剪定をして水上げが止まることは無いのか?時間がたてば確かに切口が乾いてくる、と言っても数週間後だ。

数週間と言えば、北海道では季節が変わる位の時間だ。その間、数少ない葉で光合成は大丈夫か?切られた根から根毛を出せるのか?などなどを考えると、私は、移植の為の剪定は出来ない。非常に不安なときは枝の先端部の葉をむしる程度にしている。

夏までだと数日で、葉をむしられて残った茎が離層(植物が自ら葉を落とす為に作る幕の事)によって自然と落ち、新芽が出てくる。この方が遙かに余分な水を樹体内から出さずに済むと思うのです。(確たる証拠は有りませんので、自己責任でお好きにどうぞ)

肝心なのは、枝葉より根です。移植後いかに早く根の切口から根毛を出させるか、これだと思います。写真下の様に太い根っこの切口から根毛がたくさん出てくれば、もう全く心配有りません。

根から根毛が出る様子
根の切り口の様子
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