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植木屋風の樹木の生理学

樹木の生理学を少し違った視点から見ると面白い。

樹木とは?

これから始めるお話は、全て、草ではなく樹木についてです。では、樹木の定義って何でしょう?。植物は大きく分類すると草と木に分けられます。樹木(木)と草の違いを判りやすく説明すると次のようになります。

樹木とは、地上部が一年以上生きていること。地上部の茎が木質で有ること。その茎が、自立し枝を支え葉を出すこと。根・茎・枝を伸ばす伸長成長を一年以上繰り返し、枝先に葉を付け樹冠を広げていくこと。更に、根・茎・枝が肥大成長によって形成層輪(年輪)が作られること。以上の条件を満たす植物を樹木とします。また、樹木の大きさに制限は有りません。例えば、樹高が数センチしか無い高山植物や樹高が100mを超すセコイアという木まで様々ですが、樹木を構成する各部の器官には大きな違いはありません。よって、どんなに小さくても条件を満たせば樹木なのです。

伸長成長とは、
根や枝先の組織が分裂しながら増殖し、先へ先へと距離を伸ばす成長。これによって樹高が伸び樹冠が広がり、根が伸び土壌内を張り巡る。

肥大成長とは、
根や幹や枝が径の方向に太くなる成長。これによって年輪が作られる。

一方、草は、というと根は多年性であっても地上部の茎が毎年枯れるもの。例え地上部の茎が多年生であっても年輪を作らなければ草と言えます。

しかし、どちらともつかない植物が、たくさんあります。例えば竹の茎は、草の茎を堅くした様な物であり、年輪が無いので樹木ではない。バナナの幹は葉の茎の集合体であり、木質とは違うので樹木ではない。また、ヤシの木には枝がなく樹冠を作らないので樹木ではない。更に、自立できない蔓性の植物は?、樹上に寄生するヤドリギは?などなど分類の仕方を調べてみると奥の深い世界に引き込まれます。

植物学の分野では根と葉の間を「茎」と表現しますが、直径が何メートルもある大木を見て「茎に太い枝が付いている」という表現では、まったくピンとこないので、ここからは「茎」を「幹」と表現します。

樹木の構造を大まかに理解する。根・幹・枝・葉について。

樹木には、根があり、幹があり、枝があり、葉があります。この、根・幹・枝・葉をそれぞれ植木屋風生理学の視点から見てみます。

その前に、次の作業をして下さい。公園の中に大きな木が立っています。その木は大きな木陰を作っています。そんな一本の大きな木を想像して下さい。

その木の根元は大地に向かって急激に太くなり、土の中にしっかりと食い込んでいる感じです。その太い幹を見上げると、太い枝が何本も上や横に張りだしています。そして、その太い枝は更に枝分かれし、数え切れない程の小枝です。その小枝の先は数え切れない程の葉が付いてます。こんな光景が思い浮かびましたか?。

街路樹のような、幹は太いけれど枝がバツバツ切られて木陰もできないような木を想像された方は、もう一度想像し直して下さい。これからする樹木の説明には必須ですから。

根とは、ところで根と幹の境目って何処なんでしょう?。

一般的に土の中にあるのが根、土より上が幹となるのですが、よく見ると幹の地際が急激に太くなり、いかにも土から盛り上がった根の延長のようにも見えます。その木肌も「幹と同じような、違うような」と、明確な判断が出来ません。

例えば、幹に土を盛り、数ヶ月経つと今までどう見ても幹であった場所から不定根が出ます。更に、幹から出ている枝でさえ、水苔などを巻いて置くと不定根が出たりします。逆に、土の下にある根の土を削り、強制的に根を地上に出してやると、太陽にさらされた根は年月と共に、滑らかだった樹皮がザラザラとした幹と同じ樹皮になります。と言うことで、根と幹の境目を線引きすることは難しいようです。

不定根とは、
本来の場所以外から根を出すこと。

実は「幹であった場所から不定根が出る」とは、幹の表皮の内側から「根」となる新しい細胞が生まれることであり、「幹が根に変化する」と言うことではありません。

この場合、幹と根は同じ位置で共存し、それぞれの役目をはたします。但し、全ての樹木が幹や枝から不定根を出す訳ではありませんので、「木はどこからでも根を出せるので丈夫なんだ」と、誤解をされると困ります。

実際にあった悪い例をあげます。塀を回していない平坦な庭に、ツツジの木とモミジと黒松を植えていました。その庭は、雨が降るたびに土が道路に流れ出すので、土止めを兼ねて庭に高さ1mの塀を回すことにしました。幸い、植木は移植せずに塀は完成しました。

そして塀の完成後、「平坦な庭では変化もないし、土を盛って築山風にしよう」と考え、植木に土を50cmもかぶせてしまいました。さて、その後、植木はどうなるでしょう?。実は、50cmも埋まるということは、植木にとっては死活問題なのです。

本来、木の根は水分や養分、酸素を求めて、地面の浅い所(地表面のスグ下)を這うように伸びています。根にとって地表面と50cm下とでは別世界なのです。それは、地温が大きく違う事や降雨後の水が抜けず過湿となること。また、土中の酸素が不足すること等です。

中でも土中の酸素不足は樹木にとって致命傷となります。それは、植物の葉は二酸化炭素を必要としますが、根は酸素呼吸をしているからです。

また、酸素不足は土壌中の好気性細菌(土壌有機物を根が吸収できる無機質に変える働きをする)を死滅させ、更に、二酸化炭素を吐き出す嫌気性細菌(物質を腐朽させる働きをもつ)を増殖させます。

その結果、根にとっては最悪な状態となり、衰弱し腐朽が進み死に至ります。この時、樹木は何らかの手立てを思いつきます。それが、50cm深く埋められた幹の途中(地表面の浅い所)から不定根を出すことなのです。

その結果、根にとっては最悪な状態となり、衰弱し腐朽が進み死に至ります。この時、樹木は何らかの手立てを思いつきます。それが、50cm深く埋められた幹の途中(地表面の浅い所)から不定根を出すことなのです。

虐待された、ツツジ・モミジ・黒松は、それぞれどう対処するでしょう?。

経験によると、ツツジは数週間で幹から不定根を出し、モミジは数ヶ月掛かり、黒松は一年過ぎても不定根を出しません。

ツツジなどのように、地下50cmの根が枯死する前に不定根を出すことができれば、その木はセーフです。

次に、モミジは時間が掛かりましたが、不定根を出し始めました。しかし、それと同時に、その数ヶ月の間に地下の根も腐り始めているのです。

最悪なのは、黒松です。黒松は一年後も不定根を出せずにいましたので、根は腐り木全体が枯れてしまいました。

それでは、不定根を出せる樹種は、これで安泰なのか?

不定根を出せた樹木は、今までの根に頼ることなく不定根が本来の根の役目を果たすようになります。しかし、地下50cmの根は、すでに腐り始め雑菌が繁殖し樹体に入り込む危険があります。その危険を防ぐ癒傷組織が早期に形成された木は、まだまだ長生きするでしょう。でも、癒傷組織の形成が遅れた木は数年後に枯死する運命にあるのです。

癒傷組織とは、
傷を受けた細胞は死ぬが、その周りの細胞が活発に細胞分裂を繰り返し傷口を塞ぐ組織のこと。通常の組織より木部形成が活発なため、局所的に厚みを増し膨らんで見える。広い意味で「カルス」とも言う。

そろそろ根と幹の境目の話に戻ります。学問的には、根と幹の輪切りを比べると、維管束組織の配置が違うこと、伸長・肥大成長の仕方が違うとなっています。

維管束組織とは、根から吸収した水を葉まで運ぶ為の通路「道管」と、葉からの養分を根まで運ぶ通路「師管」の二つを合わせた組織のこと。

幹と枝とは、幹と枝の定義も難しいようです。「幹は根より上である。

更に、枝や葉ではない部分である」で、済ませる訳にはいきません。難しいのは、葉との違いは良しとしても枝との違いです。例えば、クリスマスツリーの様な形の常緑針葉樹であれば、真っ直ぐ上へ伸びている部分が「幹」であり、それから横に伸びている部分が「枝」、となって説明しやすいのだが、ニレの木や桜の木などは、幹が途中で数本に分かれ「幹がたくさん有るのか、はたまた枝がたくさん有るのか?」が、非常に説明しづらいのです。

どうしても「枝」と「幹」を分ける必要があるのだろうか?。

元々、植物学の本では「枝」と言う言葉を殆ど使うことは無く、「短枝・長枝」と言う分け方をしている。その「短枝・長枝」の定義とは、その枝に直接、葉芽や花芽が付く場所であり、その芽や葉の付く間隔が短いと「短枝」、長いと「長枝」となっている。一般に想像する長い枝ではないようだ。

しかし、それだと造園屋は困るのです。

「枝」を切ると剪定と言うし、「幹」を切ると伐採と言うように、結果が全く違うことになるのです。前者は形を整えるし、後者はその場から木自体を無くす事になるからです。

樹種によっては、幹を地際から完全に切り倒すと、その切り株から数本の幹や枝や葉が出てきます。その切り株から出た直立のものは「幹なのか枝なのか?」となる。また、「なぜ切り株から木が再生されるのだろうか?」と言う疑問も残る。

木が切り倒される等の損傷を受けたとき、幹から新しく「不定芽」なるものが作られる。その不定芽は、頂芽側芽を持った一本の枝となる。そして、この不定芽が仮に三つ出れば3本の株立の木となる。次に幹の上部や枝を切ったときも、切り口から新たな小枝が出る。

頂芽とは、
小枝の最先端にある芽。頂上にあるから頂芽。上に伸びる性質を持つ。

側芽とは、
頂芽の下や脇にある芽。側面にあるから側芽。頂芽より伸びが遅く、頂芽に抑止されて成長をする性質を持つ。

街路樹の枝の切り口がコブ状となり、そこから数多くの枝が出ているのを見かけることがある。これは幹や枝の成長過程で葉を出すことの無かった「芽」、これを「休眠芽」と呼び、何かの事態に備えて眠っていた芽なのです。これが目を覚まし枝を作る。

また、幹から突然吹き出す「胴吹き」も、目を覚ました「休眠芽」であり、この「休眠芽」の痕跡をはっきり残しているのが、サクラの幹にある横筋の縞(皮目=ひもく)なのだそうです。他の樹木にも休眠芽やその痕跡はありますが、判りづらいだけなのです。

ちなみに、切り株から出た数本の幹で再生された樹木が、植木屋で「株立の木」として売られているのです。参考までに植木屋は切り株から再生したものを「本株」、人工的に数本の樹木を寄せて植え、根を絡ませたものを「寄株」と呼んでいます。

不思議なことに、これだけ再生できる樹木でも、傷は治らないのです。

例えば、葉が虫に食われて穴が空いても、その穴は塞がらない。また、幹に傷を付けると、傷のついた細胞組織が元通りに再生するのではなく、傷の付いていない周りの組織が癒合組織を形成し傷を隠しながら、補強する形で肥大してくる。そのために、何度も外傷に合うと、幹はゴツゴツといびつな形になってしまう。

幹と枝の定義、の話に戻します。学問的にも見た目で決めているようです。あまり悩むと日が暮れますから、ここでは、幹が枝分かれするまでを「幹」、その先を「枝」とし、更に、葉芽や花芽が付く細い枝を「小枝」とします。

葉とは、緑色で柔らかく扁平な、ひらひらしている部分と、それを支えている茎を含めて葉と言う。

その為、ひらひら部分を「葉身=ようしん」、支えている茎を「葉柄=ようへい」と分けて呼んでいる。葉の付き方では「単葉」と「複葉」に大別される。例えば「単葉」は、モミジや白樺などで「複葉」がフジやアカシアである。

一つの葉柄に、一枚の葉身が付けば「単葉」で、複数付けば「複葉」と学問的には分けてある。更に、その先をうんざりする程、分類されている。

葉は、樹種によって形や色、付き方などが千差万別である。そのため、樹種を見分ける時などは殆どの場合、葉を見て判断できる。冬の落葉後も葉芽や花芽の形や大きさ・色・数など、それぞれの樹種が特徴をもっている。

一般的に葉の役目と言えば、光合成によってタンパク質や炭水化物を作ることである。更に、それらを葉柄を通り枝へ、枝から幹へ、幹から根へと送る。葉は、樹木の全ての部分の成長に必要な物質の生産場所なのである。また、昨今話題の地球温暖化問題で、二酸化炭素削減を叫んでいるが、葉は、その二酸化炭素を吸収してくれる、まさに地球の救世主なのである。

その葉の役目を植木屋視点で見ると少し違って見える。

樹木は林の中で、葉に太陽光を当てるために背伸び競争をする。また、林の中ではなく、一本でポツンと立っている樹木でも、それぞれの葉が光を求め、枝を先へ先へと伸ばしていくことで円錐形や扇型の樹形となる。

同じ樹種でも林の中の樹木は、下枝は無く葉が樹上に広がっていて、幹も細く「ひょろひょろ」とした樹形となる。

一方、単木(一本でポツン)は、幹も太く枝も下から上まで万遍なく付き、樹木全体を葉が覆っている感じの樹形となる。

そこで、葉を植木屋視点で見ると「樹木は育ちながら葉を付けると言うより、葉を付ける為に成長するようなものであり、その木の樹形を決めるものである」と言える。更に、樹木がストレスを受けた時、体調の悪さを真っ先に示すのは、やはり葉である。

また、葉は非常にデリケートであり敏感でもある。そのため、移植時などで根を切ると数分で葉が萎れてくる。

植木屋は移植の時など葉の萎れを防ぐために蒸散防止剤を噴霧したり、葉の数を減らす目的で枝切り剪定をしたり、枝を切らずに葉をむしり取ったりして、なんとか樹体内の水分欠乏を防ぐ処置をする。これは結果的に、大事な葉を守る為の処置なのである。

また、落ち葉は自分の栄養分となり土壌の保湿材ともなる。更に、植物全体で見ると、セダム類、サボテン類、シダ類などのように、地上部は葉っぱだけで生きているような植物もある。厳密には葉だけではないのだが、どう見ても幹や枝より葉が目立っている。

身近なところで小さな苔(コケ)も仮根という根は有るが、水分や養分の吸収は主に葉で行っているらしい。

こうして見ると樹木にとって、葉は、生理学上どの部位より大事な器官なのかも知れない。葉を付けるために枝が有り、枝を付けるために幹が有り、その幹を支える目的と葉に水分を送り続ける為に、根が有るようなものだと言える。

樹形について。木の種類で樹形が違うのは、なぜ?

木の種類によって樹形にはそれぞれの特徴があります。では、樹種が同じで有れば全て同じ樹形に育つのでしょうか?。確かに人工的に栽培されている同樹種は、ほぼ同じ樹形をしています。これは、土質や日当たり、気候などが同一条件なので、当然その樹種本来の成長パターンを守るためです。逆に言えば、条件が変わると同樹種でも樹形が大きく変わることになります。これは条件によって本来の成長パターンを樹木自ら変えてしまうためです。

植木屋の視点で見ると、樹種によって樹形が変わることよりも「なぜ、同じ樹種なのに樹形が大きく違うのか?」と言う事に興味がわきますが、このお話は次回の題目にとっておきます。

それでは「木の種類で樹形が違うのはなぜ?」のお話しです。

例えば、公園によく植えてあるニレの木は、大きくて枝の幅も広く、扇形をして木陰を作っています。そのニレの木も若木の頃は、スッと伸びている幹に短い枝が数本付いていて、成木のニレの木とは全く違う樹形であり、決して扇形のミニチュア形では無いのです。

では、モミの木やエゾマツのようなクリスマスツリー形の樹木はどうでしょう。若木の頃から成木と同じ樹形で、成長につれ円錐形を拡大したように育ちます。これは、樹種の違いにより、芽の付き方が違う事が大きく関係します。どちらの木も、苗木の頃は一本の幹の先端に頂芽が有り、その下や脇には側芽が有ります。そして、頂芽は側芽より成長が早く、上に伸びる性質を持っています。これを頂芽優勢と言います。そして、側芽は成長が遅めで斜め上や横方向に伸びる枝となります。このため樹形全体が円錐形に近い形となります。

頂芽優勢とは、
小枝の先端(てっぺん)の芽が、小枝の脇の芽より伸びが早く上向きに勢いが優位であること。

ニレの木などのように扇形になる木は、陰日向の条件や年齢などにより、側芽の成長も早まる事で、最初の枝分れが始まります。枝分れした小枝にも頂芽と側芽が有りますから、2本が3本、3本が4本と増えていきます。更に、樹形全体として見たときも頂芽優勢の原理は働いているため、木の頂上部の頂芽が上向きに優勢であり、下段の枝の頂芽が横方向に押さえられる事になります。その繰り返しによって扇状の樹形を作っていきます。

では、クリスマスツリー形の木はどうでしょう。ニレの木などと違い、最初の枝分かれは無く、幹先端の頂芽が、本来の頂芽優勢の原理をいつまでも厳格に守りつづけるのです。そのため、綺麗な円錐形状を維持したまま、数十メートルも育つのです。

その頂芽優勢の原理を利用して、人工的に枝分かれを作ることが簡単にできます。幹先端の頂芽を取ってしまうと、その下の数個の側芽は自分が頂芽だと感じ、立ち上がるように伸び始めます。更に、その立ち上がった数本の頂芽を取ってしまうと、また勘違いした側芽が頂芽になります。これを繰り返すと円筒形や逆円錐形状の、なんとも不思議な樹形になります。

山歩きをしていると、幹の途中から枝分かれをしたエゾマツやトドマツを見かけますが、これは先端の頂芽が鳥に折られてしまったとか、雪で折れてしまったとか、あるいは虫が頂芽を食べてしまったのかも知れません。自然林で枝分かれをしたエゾマツなどを見た時は「幹先端の頂芽を何かの原因で無くしてしまったのかなー」と、頂芽優勢と言う言葉を思い出して下さい。

その頂芽優勢に付いてですが、幹先端の頂芽と枝先端の頂芽、あるいは頂芽と側芽の成長原理にしても、そこに何らかの情報伝達の機能が無ければならない筈です。動物では神経細胞がその役目をするのでしょうが、植物には神経が有りません。植物の情報伝達は、維管束と言う組織を植物ホルモンが移動する事で制御されているようです。

植物ホルモンとは、植物が自ら生成する物質である、オーキシン・ジベレリン・サイトカイニン・アブシジン酸・エチレン、等々が代表的なホルモンで、更に細かく分類されている。そのホルモンが各部細胞の成長に影響を与え、成長促進や成長阻害に働く。葉を太陽に向けたり、枝を曲げたり、四季を感じて葉を落としたり、芽を開花させたり、果実を熟成させたり等々、植物の全ての行動を管理している物質であり、動物の神経の役目をはたしている。

ホルモンの例としては、「一つの箱の中で腐りかけたリンゴの実からエチレンが放出され他のリンゴも腐る」と良く聞きますね。では、エチレンはリンゴを早く腐らせる阻害物質なのでしょうか?。実はエチレンは熟成を早める促進物質なのだと言われています。もっと凄いのはオジギ草や食虫植物などです。オジギ草は触ると瞬時に葉を閉じて下に向きますが、このとき維管束組織を毎秒 1〜10cmでホルモンの伝達があるそうです。植物ホルモンに関しては、まだまだ未解明な部分が多いとされていますので、学者さんの解明を気長に待ちましょう。

水移動 (根から吸われた水はどうやって樹木全体に行き渡るのか?)地球上の植物で最高の樹高を持つ「セコイヤ」と言う木は、実に樹高が112mもあるらしい。

調べて見ると札幌のテレビ塔は、高さ147.2mであり、その展望台は90.38mなのだと書いてあった。と言う事は、展望台から112mの「セコイアの木」を見ても、木の先端は20mも上にあると言う事だ。「なんと恐ろしいことだ、剪定を依頼されないことを願うだけだ」。

話は外れましたが、その「セコイアの木」にも、当たり前ですが頂上(112m)の葉の先まで水が上がっていることになる。では、どうして水が100mも上がるのか?、を少し考えてみる。

まず最初に水が樹体内を登っていく最低条件として、最初に芽生えた時から大木となる数百年の間、一度も、樹体内の水の柱(水柱)を切らすことが無いと言う条件が必要です。逆に言うと、水柱を切らさなかった樹木しか、今現在、生存していないと言うことになります。

その水を上げる為には、ポンプの役目をする何らかのエネルギーが必要な筈です。実は樹木全体が、ポンプの連続体のような構造だとされていて、そのポンプは、それぞれ、凝縮力・根圧・吸引力・浸透圧・毛細管現象、などと呼ばれています。その数種類のポンプが上手に組み合わさって、一つの大きなポンプが成り立っています。

それぞれのポンプを簡単に説明すると以下になります。

・凝縮力=水分子同士が離れまいと引き合う力のこと。例えば、凝縮力があるから水玉ができる。

・根圧=根が水に圧力をかけて水を樹体内に押し上げる力。主に落葉樹に根圧があるらしい。これは、春の芽吹き前でも枝などの切り口から水が湧き出る、この力は根圧によるとされている。

・吸引力=葉からの蒸散によって水を引き上げる力のこと。樹木のポンプの中で最強の力を持っている。

・浸透圧=水に溶け込んでいる物質の濃度が違う溶液が、半透膜をはさんで接した時、溶液は濃度の濃い方に移動する力。樹木の各部は細胞の集団であり、その細胞は細胞膜と液胞膜で構成されている。その細胞膜・液胞膜とも半透膜構造である。

・毛細管現象=コップにストローを挿すとストローの中の水が少しだけ持ち上がる力のこと。一般的には、一気圧で持ち上がる水は10m程度である。

以上の、ポンプの役目を果たすそれぞれの力は、太陽光や大気圧などを源とした自然でクリーンな、しかも112mも水を持ち上げる強靱なエネルギーなのです。

樹木全体の水の流れを大まかに見ると、根が水の吸い口であり、幹や枝が水の通る配管であり、葉が水を吐き出す排出口と、例えることができる。

では、それぞれの各部のポンプの役割を、それぞれの場所で見てみましょう。

まずは、水の排出口となる葉におけるポンプの役目とは、葉の気孔から水分が蒸散することである。ストローでジュースを飲むときと同じ吸引力が、そこに働くことになる。太陽光や大気圧のエネルギーで、葉の気孔に吸引力が生じる。気孔より水分が吸引された葉の内部では、細胞内の溶液濃度が濃くなる。すると、葉の内部に浸透圧が生じ、道管内の水が溶液濃度の濃い細胞に引き込まれる。この一連の作用が葉のポンプ構造である。

参考までに、水を蒸散させるのに必要なエネルギーは、葉に当たる太陽光であるが、その太陽光は光合成に使用されるエネルギーが約10%で、蒸散に向けられるエネルギーが約90%と言われている。

次に、幹や枝は、葉の道管内で水の凝縮力が働き、さらに一連である枝や幹の道管内の水も凝縮力によって水柱が切れることなく根までその力を伝えることになる。厳密にはこの時、幹や枝の細胞同士の間でも凝縮力や浸透圧、また毛細管現象も同時に働き、複雑に作用している筈である。この一連の作用が木部(幹や枝)のポンプ構造となる。

凝縮力が主なポンプであることを示す実験によると、幹の径を昼夜に厳密に測定すると、昼間はその径を縮小し、夜間は径を増大するらしい。

最後に根のポンプ構造はどうだろう。水の吸い口となるのは根の先端部であり、その先端部の更に先端には1mmにも満たない細くて柔らかい毛根と呼ばれる組織が無数に有り、この毛根の表皮が水の最初の入り口となる。根の先端部は土壌内で、水を求めて枝分かれしながら伸び続け、先端部の数と表面積を増やしていく。その先端部の毛根表皮付近では、土壌内水分との溶液濃度差が生じる。そこに浸透圧が働くこととなり、水分が毛根を通して根の細胞内に取り込まれる。

ここ迄で、根圧と言うポンプが一度も使用されていないことに気づきましたか?。

さて、根圧は何処で使われるのでしょう。葉の吸引力の無い落葉期でも、枝を切ると確かに水が噴き出します。これを「根圧」と言ってしまうと簡単なので、少し補足します。

落葉樹の多くは、枝や幹の表皮にも水分を蒸散させる気孔の様な極めて小さな器官があり、そのため僅かな吸引力が生じると言われています。また、木部内の毛細管現象も働くようで、これは木部内の水の通り道である維管束組織の隙間が、極めて小さいためであるらしい。

例えば毛細管現象とは、より小さな隙間に水が引き込まれることであるため、土壌内の隙間(空隙)より木部内の維管束組織が小さければ、土と毛細管現象による水の引き合いに、維管束組織が勝つことになる。

「根圧」とは、これらの総合作用であるらしい。反対に、土壌の隙間が極めて小さい粘土層の場合、水の引き合いで樹木より粘土層が勝ってしまうことも考えられる。いずれにしても粘土層に樹木を植えることは、ろくな結果にならないだろう。

水が、どうして重力に逆らって100mも上昇するのかを偉そうに説明してきましたが、実は現在の物理学や植物生理学でも完全には解明されていないらしく、私も納得のいく説明に、まだ出会ったことがない。よって、上記の説明が「チンプンカンプン」でも致し方ないとあきらめて下さい。

樹木の凍害。北海道の樹木はどうやって厳冬期を乗り越えているのか?

一般に凍害と言っても、凍裂、寒乾風、寒枯れ等が有る。その中で、はっきりと判る凍害は、傷の残る凍裂である。

凍裂とは、寒さで幹の表面層が凍り、極度の乾燥状態(フリーズドライ)となり、そして表面層の体積は減少する。しかし、幹の内部は凍らないため体積の変化が起きない。その結果、幹の凍った表面層が内圧に負けて縦に割れてしまう事である。

次に、一般的には春先に起きる凍害で、寒乾風(寒乾害)がある。

これは、土壌が凍結、もしくは根の活動温度(土壌の温度が+5度前後とされている)に達していなく、根が水分を供給できる状態となっていない時期に、樹木が乾燥した冷たい風に長時間さらされると、小枝や葉芽などから水分を奪われ、樹体内が乾燥する。

結果、枝枯れ等を引き起こす。特に気を付けたいのは、春先に日中の気温が高い日が数日間続き、新葉が出始めた頃である。たった一晩の寒乾風で、新葉の先は茶色く枯れてしまう。春先に気温差があまりに大きいと、植物にとっては「新葉を出して良い春なのか?、まだ冬眠していて良い冬なのか?」が、判断出来ないのである。

そして、樹木にとって最悪な結果をもたらすのが寒枯れである。

樹木は冬に備えて、葉・芽・幹や枝の細胞内を変化させ、細胞内の溶液濃度を上げることで氷結点を下げ、耐凍性・耐寒性を獲得している。その耐凍性・耐寒性を獲得する前に、氷結点を超す気温低下がある場合と、耐凍性・耐寒性を獲得した後でも、それを下回る低温にさらされた時は、細胞内の溶液が凍結し細胞が破壊され壊死することで、立ち枯れ状態となる。

では、どうやって樹木は耐寒性を持つのか。それは耐凍性を持つ事である。その耐凍性とはなんだろう。

実は、植物は、あまりに寒いと凍るのです。そして凍ったまま長い期間を過ごせるのです。この能力が耐凍性です。但し、凍ると言っても個々の細胞が凍るのではなく、細胞と細胞の間(隙間)が凍るのです。

隙間内の水分がゆっくりと凍り始めた時、細胞内の水が徐々に隙間に移動することで細胞液内の糖質や有機酸、アミノ酸などの濃度が上がり、細胞内の氷結点を下げ、凍結を防いでいるです。これは、塩分濃度の濃い海水が凍らないのと同じ原理です。

春になると逆の現象が起こり、隙間の氷が溶け細胞内に引き込まれて、適度な細胞液濃度となり、はれて春を迎えるのです。

寒冷地の全ての樹木が、この耐凍性を持っている訳では無いようで、日の長さ(昼と夜の時間差)や気温の変化を察知し、細胞液の濃度調節や樹皮を工夫して、とにかく凍らないで冬を過ごす樹木も有ります。これは耐凍性と言うより、耐寒性には自信有り、と言う状態でしょうか。

しかし、耐凍性・耐寒性を持つ樹木が厳冬期を乗り切っても、寒乾害には非常に弱いのです。春先、気温や日の長さによって、耐寒・耐凍性を樹木が解除した後に、強い寒乾風に当たると、常緑樹は、かなりのダメージを受けます。

特に、根のある土壌が凍っていて、日中は春の陽気と言う日が続いた後に寒乾風にあたると、厳冬期には青々していた常緑樹も数日で茶色くなります。葉から(微量ながら幹や枝からも)水分が蒸散し、それに伴う水分の供給が、根から無いことによる脱水症状です。

また、落葉樹も脱水状態になります。これは、葉芽からも枝や幹からも蒸散が有るからです。落葉樹の木肌は常緑樹に比べて薄く、樹皮内部の水分が脱水しやすいと考えられます。

紅葉について(紅葉の美しさを決める条件)。

紅葉の色を作っているのが、色素で有ることは皆さんが知っていることです。そして、良く耳にする代表的な色素が下記の三つです。

1.赤い色素のアントシアニン系色素グループのクリサンテミン(例ばモミジの紅葉)

2.黄色い色素のカロチノイド(例ばイチョウの紅葉)

3.緑の色素のクロロフィル

では、この色素は何の条件によって出てくるのでしょうか。また、どの色素がどうなると紅葉は美しいのでしょうか?。

一般的に美しい紅葉の条件として、「一日の寒暖差が大きく日中に日差しが良く当たっていると、より赤く(黒ずんだ赤ではない)・より黄色くなる」と言われています。

では、寒暖の差が何に影響するのか。

紅葉前の葉の中は、クロロフィル(緑色素)を含む葉緑体とカロチノイド(黄色素)が混在しています。その中でクロロフィルが大多数を占め、カロチノイド(黄色素)は15%程度含まれているが、葉緑体に隠れていてる。そのため、葉は緑色に見える。

寒暖の差により秋と感じた木は、葉緑体の分解を始める。また、葉柄の付け根に離層と言う組織を作る。離層は冬に葉を落とすための分離層であり、枝と葉身を隔てる蓋でもある。その離層によって葉内の葉緑体に多く含まれるタンパク質や炭水化物が、枝への通路を塞がれ葉内に蓄積される。そのタンパク質や炭水化物が、寒暖の差が大きいほど分解促進され、アミノ酸や糖に変化する。

更に、アミノ酸や糖が、アントシアニン系色素(赤い色素)のグループであるクリサンテミンを作る。このような化学変化を経て、葉は赤く見えてくる。この過程の中で、クロロフィルが消失する時、隠れていたカロチノイドの黄色が見えたり、また、クリサンテミンの赤色と混ざる事で、オレンジ色が現れたりする。

寒暖差が少なければクロロフィルの分解が進まなくなるため、赤色のクリサンテミンと緑色のクロロフィル両方が混在し、黒ずんだ赤となったりする。

また、日中の日差しは何に影響するのか。

太陽を良く受けた葉ほど、クリサンテミンの元の物質であるタンパク質などが豊富で有ること。また、アントシアニン系物質の生成には日光が必要であり、更に、日光には葉の温度差を大きくする役割もある。

紅葉の始めに良く見る光景で、一本の木の葉が赤や黄色や橙色、更に、まだ緑の葉が残っていたりする。これは、樹冠の先の葉は早くに紅葉を始め、より赤くなるし、枝内の日陰にあった葉は紅葉が遅れ、黄色や橙色だったりするからである。

良くある質問で「この木は紅葉が綺麗ですか?」と聞かれる。植木屋としては「その年の気候であったり、植える場所の土壌成分や陰日向の条件で、紅葉の仕方は変わりますよ」と答えています。

以上が植木屋の視点で見た樹木生理学でした。

身近なところにある樹木を、少しでもご理解頂き、ご自宅の植木と会話して下さい。植木は生き物ですから。

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